「最近、髪全体のボリュームが減ってきた気がする…」
「分け目が以前より目立つようになってきたかも…」
「抜け毛が増えて、このまま薄くなってしまうのではと不安…」
このような髪の変化に悩む女性は少なくありません。女性の薄毛には様々な原因がありますが、その中でも最も代表的なものの一つが「FAGA(女性男性型脱毛症)」です。
FAGAは進行性の脱毛症であり、放置すると徐々に薄毛が目立つようになる可能性があります。しかし、そのメカニズムを正しく理解し、早期に適切な対策を始めることで、進行を緩やかにしたり、改善を目指したりすることが可能です。
この記事では、「FAGAとは何か?」という基本的な知識から、髪が薄くなるメカニズム、そして関連する要因について、医師の視点から詳しく、そして分かりやすく解説します。薄毛の全体像を把握し、ご自身の状態を理解するための一助となれば幸いです。
FAGA(女性男性型脱毛症)の基礎知識
FAGAは "Female Androgenetic Alopecia" の略称で、成人女性に見られる最も一般的な薄毛のタイプです。「女性男性型脱毛症」とも呼ばれます。
主な特徴:びまん性脱毛
男性のAGA(男性型脱毛症)が、生え際の後退(M字型)や頭頂部の禿げ上がり(O字型)といった特徴的なパターンを示すのに対し、FAGAの多くは「びまん性脱毛」というパターンをとります。これは、特定の箇所だけが禿げるのではなく、頭部全体、特に頭頂部や分け目を中心に髪の毛が全体的に細くなり、密度が低下していく状態を指します。
そのため、「髪全体のボリュームが減った」「分け目の地肌が透けて見える範囲が広がった」「髪が細くてコシがなくなった」といった自覚症状が現れやすいのが特徴です。完全に髪の毛がなくなることは比較的まれですが、進行すると地肌がかなり目立つようになります。
発症年齢
発症年齢には個人差がありますが、30代後半から40代以降に自覚される方が多い傾向にあります。しかし、中には20代で発症するケースもあります。
FAGAのメカニズム:なぜ髪が薄くなるのか?
FAGAによる薄毛が進行する背景には、主に「遺伝的要因」と「ホルモンの影響」が深く関わっています。
1. 遺伝的要因
FAGAになりやすい体質(男性ホルモンに対する感受性など)は、遺伝によって受け継がれると考えられています。ご家族、特に母方の女性に薄毛の方がいる場合、ご自身もFAGAを発症する可能性が高まる傾向があります。ただし、遺伝的素因があっても必ず発症するわけではありません。
2. ホルモンの影響
- 男性ホルモン(アンドロゲン)の影響: 女性も副腎や卵巣で男性ホルモンを少量分泌しています。この男性ホルモンの一種である「テストステロン」が、毛根周辺に存在する「5αリダクターゼ」という酵素によって、より強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されます。
- DHTと毛根への作用: DHTが、毛乳頭細胞にある「アンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)」と結合すると、髪の成長を抑制する信号(脱毛因子TGF-βなど)が産生されます。遺伝的にこのレセプターの感受性が高い人は、DHTの影響を受けやすく、薄毛が進行しやすくなります。
3. ヘアサイクルの乱れ
髪の毛には、「成長期(髪が太く長く成長する期間)」→「退行期(成長が止まる期間)」→「休止期(髪が抜け落ちる準備期間)」という一定のサイクル(毛周期)があります。
DHTの影響を受けると、このヘアサイクルが乱れ、「成長期」が著しく短縮されます。髪が十分に成長する前に退行期・休止期へと移行してしまうため、太く長い毛に育たず、細く短い毛(軟毛)が多くなり、抜け落ちやすくなります。
4. 毛包のミニチュア化(矮小化)
ヘアサイクルの乱れが繰り返されるうちに、髪の毛を作り出す器官である「毛包」自体が徐々に小さくなっていきます。これを「ミニチュア化」と呼びます。ミニチュア化した毛包からは、細く、色素の薄い、弱々しい毛しか生えてこなくなり、最終的には毛包が消失してしまうこともあります。これが、FAGAによる薄毛が進行する直接的な原因です。
5. 女性ホルモン(エストロゲン)の減少
女性ホルモンの一種であるエストロゲンには、髪の成長期を持続させ、ハリやコシを与える働きがあります。30代後半以降、特に更年期を迎えるとエストロゲンの分泌量が大きく減少します。これにより、相対的に男性ホルモンの影響が強まり、FAGAの発症や進行が促されると考えられています。産後の抜け毛も、妊娠中に増加していたエストロゲンが急激に減少することによる一時的なホルモンバランスの変化が影響しています。
FAGAの発症・進行に関わる要因
FAGAの根本的な原因は遺伝とホルモンですが、以下のような要因も、その発症や進行のしやすさに関与している可能性があります。
- ストレス: 過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、血行不良を引き起こすことで頭皮環境に悪影響を与えます。
- 生活習慣の乱れ: 睡眠不足、栄養バランスの偏った食事(特にタンパク質、ビタミン、ミネラルの不足)、喫煙などは、髪の健やかな成長を妨げる要因となります。
- 間違ったヘアケア: 頭皮への過度な刺激や、毛穴を詰まらせるようなケアは、頭皮環境を悪化させる可能性があります。
- 他の病気: 甲状腺機能の異常や貧血などが、抜け毛や薄毛の原因となることもあります。
これらの要因が複雑に絡み合い、FAGAの症状を悪化させたり、他のタイプの脱毛症を併発したりすることもあります。
FAGAのサインとは? ~早期発見のために~
FAGAはゆっくり進行することが多いため、初期段階では変化に気づきにくいこともあります。以下のようなサインが見られたら、注意が必要です。
- 分け目の幅が広がってきた
- 髪全体のボリュームが減った
- 頭頂部の地肌が透けて見える
- 髪が細くなり、ハリ・コシがなくなった
- 抜け毛が増えた気がする
これらのサインは、FAGAの可能性を示すものです。ご自身の状態を客観的に把握するために、セルフチェックを行うことも有効です。
⇒ [女性の薄毛セルフチェック10項目]
診断と治療の重要性
薄毛の原因はFAGAだけではありません。自己判断はせず、症状が気になる場合は、皮膚科や薄毛治療専門のクリニックを受診し、医師による正確な診断を受けることが非常に重要です。原因に応じた適切な対策・治療を早期に開始することが、進行を食い止め、改善への道を開く鍵となります。
まとめ:FAGAを正しく理解し、前向きな対策へ
FAGAは、遺伝的素因とホルモンの影響により、主に頭頂部や分け目の髪が細く少なくなる女性特有の進行性の薄毛です。そのメカニズムは、DHTが毛根に作用し、ヘアサイクルを乱し、毛包をミニチュア化させることにあります。
薄毛の原因やメカニズムを正しく理解することは、不安を軽減し、ご自身に合った対策を見つけるための第一歩です。FAGAは進行性ですが、適切なケアや治療によって、その進行をコントロールすることは可能です。
まずはご自身の髪や頭皮の状態に関心を持ち、変化に気づくことが大切です。
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⇒ [女性を薄毛にする10の原因]